ナショナル・ロマンティシズムと北欧モダン

ナショナル・ロマンティシズムとは

 20世紀の初頭に起こった、民族や国民国家などを強く意識した芸術スタイル。

 

18~19世紀のヨーロッパで流行したロマン主義を起源として、美術、音楽、建築など分野の垣根を超えて広がった。

 

<建築分野では>

1890年代から第一次大戦がはじまるまでの時期、おもに、北欧、バルト三国で主流となった。

19C〜20Cにかけての近代社会において、民族や国民国家の意識が高まったことから、地域性やアイデンティティを建築で表現しようした動きがあった。

 

北欧の歴史的背景や、その土地の持つ特殊性が関係している。

 

<近代建築化への流れ>

新古典主義→(折衷主義)→ナショナル・ロマンティシズム→(北欧古典主義)→北欧モダン

 

とくに、ロシアからの独立を目指していたフィンランドでは、独自の民族文化を築く課題に直面していたことから、この思想を取り入れた建築物が多くみられる。

(フィンランドは、スウェーデンとロシアに長いあいだ支配されており、ほとんど自国の文化を持たないまま、1917年独立した)

 

デザイン面での特徴は、歴史的な城館建築、フィレンツェやヴェネチアの宮殿、フランスのゴシック建築などを混ぜ合わせたものが多い。おおよそ、北方民族博物館(1907,クラーソン設計)から始まり、スト ックホルム市庁舎(1923,エストベリ設計)でピークに至ったとされている。

 

<北欧らしさ>

重要な点は、民族主義的といっても決して排他的なものではなく、自国の風土や自然を活かし、うまくデザインに取り込もうとする姿勢が見て取れること。

この柔軟性は、のちの北欧モダンにも引き継がれ、今の"北欧らしさ" につながっている。

 

<北欧諸国の地図>

[googlemaps https://www.google.com/maps/d/embed?mid=1z_vIWha6P0UpXNrWrFGHgSb_tDg&hl=en&w=640&h=480]

ナショナル・ロマンティシズムの建築

リッラ・ヒュットネース

リッラ・ヒュットネース
1989-1901 スウェーデン中部 ダーラナ地方 ファールン市 スンドボーン
画家カール・ラーションが暮らした家
via wikipedia

タンペレ大聖堂

タンペレ大聖堂
1902 フィンランド タンペレ
設計:ラルス・ソンク
via wikipedia

コペンハーゲン市庁舎

コペンハーゲン市庁舎
(1892)-1905 デンマーク コペンハーゲン
設計:M.ニーロップ
via wikipedia

北方民族博物館

北方民族博物館 Nordic Museum
(1880)1907 スウェーデン ストックホルム
設計:Isak Gustaf Clason
via wikipedia

ヘルシンキ中央駅

ヘルシンキ中央駅
1914 フィンランド ヘルシンキ
設計:エリエル・サーリネン
Helsingin päärautatieasema ylsi BBC:n vertailussa neljännelle sijalle. (JARNO JUUTI)
via matkailu

フィンランド国立博物館

フィンランド国立博物館
1917 フィンランド ヘルシンキ
設計:エリエル・サーリネン

ストックホルム市庁舎
1923 スウェーデン ストックホルム
設計:ラグナル・エストベリ
via wikipedia

ノーベル賞の記念晩餐会が行われる場所として有名な建築物。

 

「黄金の間」はビザンチン風

「青の間」は北欧的新古典主義

外観はヴェネチア風で、

ファサードはスウェーデンの中世建築に用いられたような煉瓦が使われている。

 

ストックホルム市庁舎 黄金の間

「黄金の間」Golden Hall
via wikipedia

「青の間」Blue Hall
via wikipedia

北欧古典主義の代表作

デンマーク フューン島の美術館

フューン島の美術館
1912-17 デンマーク フューン島 漁港フォーボー
設計:C.ペーターセン
via visit Fyn

ストックホルム市立図書館

ストックホルム市立図書館
1928 スウェーデン ストックホルム
設計: アスプルンド
via wikipedia

ストックホルム市立図書館

北欧モダンとは

 合理的でミニマルな造形、自然素材の使用、工業生産とハンドクラフトの程よいバランスなどが特徴。

 

<北欧モダンのはじまり>

アスプルンドが会場計画を行ったストックホルム博覧会(1930)によって、はじめてモダン建築が北欧にもたらされた。

 

彼は主任建築家に任命され、鉄とガラスをフルに使った近代建築を完成させた。これがきっかけとなって、北欧諸国にモダニズム建築が広まった。

1930年開催のストックホルム博覧会
1930年開催のストックホルム博覧会

<世界的な北欧ブームのきっかけ>

1954~57年の間、アメリカとカナダを巡回する「デザインinスカンジナビア展」が開催され、それをきっかけに北欧デザインは世界的なブームとなった。

 

The Design in Scandinavia exhibition, April-May 1954, U.S.A. Pictures from the Brooklyn Museum archive
The Design in Scandinavia exhibition, April-May 1954, U.S.A. Pictures from the Brooklyn Museum archive

北欧モダンの開拓者、アスプルンド

グンナール・アスプルンド

グンナール・アスプルンド
1885-1940(満55歳没)
スウェーデンの建築家

森の火葬場・森の墓地

森の火葬場・森の墓地
1940 スウェーデン ストックホルム
設計:アスプルンド,レーヴェレンツ
via wikipedia

<アスプルンドの美学を受け継ぐ礼拝堂>

ナショナル・ロマンティシズムの傑作といわれる礼拝堂。

トゥルクの礼拝堂

Resurrection Chapel
1938-41 フィンランド トゥルク
設計:エリック・ブリュックマン
© 2017 Jonathan Dowse

フィンランドの天才建築家、アールト

アルヴァ・アールト

アルヴァ・アールト
1898-1976(満78歳没)
フィンランドの建築家、都市計画家、デザイナー

<「美しさとは、目的と形の調和である」>

合理主義と、自然素材や自由形態をうまく融合するタイル。建築が圧政的であるよりも、享楽的な存在であることを望んでいたという。

 

アールトは、企業労働者のための住宅地を計画したり、小規模住宅の研究などもおこなっていた。社会改革にも目を向けた視野の広い建築家。

 

ヴィープリの図書館

ヴィープリの図書館
1927-35 ロシア ヴィープリ
設計:アルヴァ・アールト
via wikipedia

The restored lecture hall via archidaily
The restored lecture hall via archidaily

講演者の声が後ろまで届くよう、天井をうねらせている。ヴィープリは旧フィンランドの街で、現在はロシアのヴィボルグ(Vyborg)に属する。20年以上もの歳月をかけて修築された。修築コストは、およそ800万ユーロ(約11億2000万円)といわれる。

 

パイミオのサナトリウム

パイミオのサナトリウム
1928-33 フィンランド パイミオ
設計:アルヴァ・アールト
via wikipedia

パイミオのサナトリウム
Interior of the sanatorium
The Aalto House

The Aalto House
1936 フィンランド ヘルシンキ ムンキニエミ
設計:アルヴァ・アールト
© Chen Hao via archieyes

© Chen Hao
© Chen Hao

規則性、左右対称性、北欧古典主義、機能主義の反復性などを超えて、断片化、積層化、多様化への肯定的な態度が見られる。自国の森林文化に対する深い尊敬が込められている。

 

マイレア邸

マイレア邸
1939 フィンランド ノールマルク
設計:アルヴァ・アールト
via archieyes

アールストローム材木財団の女相続人夫妻のために設計された。夫妻は、1930、40年代のアールトにとって重要なパトロンだった。彼らはアルテック社の設立にも協力し、1935以降から現在までアールトの家具の生産に従事している。

 

MITベーカーハウス

MITベーカーハウス
1948 マサチューセッツ ケンブリッジ
設計:アルヴァ・アールト

サユナツサロのタウンホール

セイナッツァロの役場
1951 フィンランド サユナツサロ
設計:アルヴァ・アールト
©︎ NICO SAIEH via DIVISARE

基本的には建物を修飾的に扱う配置には反対する立場をとり、建物に出入りする人々の自然な動きこそが、敷地を形作るための第一の手段でなければならないと考えていた。

 

ハンザフィアテル集合住宅

ハンザフィアテル集合住宅
1957 ドイツ ベルリン
設計:アルヴァ・アールト
via Berlin Perspectives on Architecture

文化の家

文化の家 クルトゥーリ・タロ Helsinki Hall of Culture
1958 フィンランド ヘルシンキ
設計:アルヴァ・アールト
via archidaily

ヴォクセンニスカの教会

ヴォクセンニスカの教会 Church of the Three Crosses
1958 フィンランド イマトラ
設計:アルヴァ・アールト

ヴォクセンニスカの教会

Church of the Three Crosses, Vuoksenniska via Nat Chard

ロヴァニエミの図書館

ロヴァニエミの図書館 Rovaniemi City Library
1961-68 フィンランド ロヴァニエミ
設計:アルヴァ・アアルト
via I am a camera.

アトリエ・ アールト(1954-55)

国民年金局カンサンエラケ・ライトス(1953-57)

セイナヨキの市庁舎(1958,1959-65)

オタニエミ工科大学(現・アールト大学)本館(1969)

 

 

黄金期1950年代を駆けぬけた、ヤコブセン

アルネ・ヤコブセン

アルネ・ヤコブセン
1902-1971(満69歳没)
デンマークの建築家、デザイナー

ベラヴィスタ集合住宅

ベラヴィスタ集合住宅
1934 デンマーク コペンハーゲン
設計:アルネ・ヤコブセン
via wikipedia

テキサコのガソリンスタンド

テキサコのガソリンスタンド
1936 デンマーク コペンハーゲン
設計:アルネ・ヤコブセン
via wikipedia

SASロイヤルホテル

SASロイヤルホテル(現・ラディソンブルーロイヤルホテル)
1960 デンマーク コペンハーゲン
設計:アルネ・ヤコブセン
via Radisson Blu Royal Hotel

近現代の北欧建築

ミュールマキ教会 Myyrmäen kirkko

ミュールマキ教会 Myyrmäen kirkko
1980-84 フィンランド ヘルシンキ ヴァンター
設計:ユハ・レイヴィスカ
via wikipedia

ミュールマキ教会
ヘルシンキ現代美術館

「chiasma」キアズマ(ヘルシンキ現代美術館)
1998 フィンランド ヘルシンキ
設計:スティーブン・ホール
via wikipedia

Chapel of St.Lawrence

Chapel of St.Lawrence
2010 フィンランド ヴァンター
設計:Avanto Architects, Ville Hara and Anu Puustinen
via archidaily

関連書籍

『物語 北欧の歴史―モデル国家の生成』,武田 龍夫 (著),中公新書,1993
『フィンランド光の旅 北欧建築探訪』,プチグラパブリッシング,小泉 隆 (著), 伊藤 高 (編集), 坂根シルク (翻訳),2009
『北欧の建築 エレメント&ディテール』,小泉 隆 (著),学芸出版社,2017