リージョナリズムとは
地域のアイデンティティーをいかして、風土や文化的コンテクストをデザインに取り入れた建築。
とくに共通した様式はもたない。
20世紀前半に流行したインターナショナリズムに対する反動的な動きとして、20世紀後半におこった動きと捉えられる。これらは単純な二項対立ではなく、相補的、複層的であって、都市の二重化にみられる特徴でもある。
<クリティカル・リージョナリズム「批判的地域主義」>
リージョナリズムのような、単なる土着的という意味ではなく、主義主張をもって普遍的な秩序に抗ったり、批判的な意図をもつもののことをさす。前衛的でありながら、地域性から出発するアプローチ。
この考えがでたのは1980年の初頭、ポストモダニズムの最盛期と同じ時期で、それに対抗する立場をとる。
この言葉をはじめて使ったのは、ツォニス+ルフェーヴルで、彼らの論文を参考にしたフランプトンによって、やや異なる意味で使われた。
<リージョナリズム界隈の年譜>
バーナード・ルドフスキー『建築家なしの建築』1964
ミロン・ゴールドフィンガーの『太陽の中の村落』1969
ヴェンチューリがアメリカのヴァナキュラーに注目
レオン・クリエらのコンテクスチュアリズム
微妙に違う「批判的地域主義」の考えかた2つ
1. ツォニス+ルフェーヴルの81年の論文「グリッドと通行路」
・はじめて「批判的地域主義」という言葉をつかいだした
・場所の喪失への意識を覚醒
・地域へのカント的「批判」
・「ダーティ・リアリズム」に着目
2. フランプトン「批判的地域主義にむけて」(ハル・フォスター編『反美学』1983年所収)
・あい反する普遍性と個別性を弁証法的に乗り越え、バランスをとること。ポール・リクールを引用。
・空間の身体的な体験を重視する
・キッチュに陥らない反中心主義的な地域主義
<七つの基本戦略>
1 ユートピア主義と関わらない周縁的実践であること。
2 独立したオブジェではなく、境界を作る建築であること。
3 背景画的な建築ではなく、テクトニクスの建築を実現すること。
4 敷地の特殊要素を強調すること。
5 メディアに抗して、触覚的なものを重視すること。
6 ときには地方の語法を再解釈し、現在的な全体の分断を計ること。
7 それは普遍的文明から免れる文化の隙間に現われること。
Rethinking Critical Regionalism: Contexturalism/ Antivanguard/ Realism | Igarashi Taro
カタルーニャ国民運動
<1951 グループR 設立とともに生まれた>
近代カタルーニャ地域主義の思想は1952年、グループR(バルセロナの集団)の結成から始まった。
彼らは中心主義に対して反対派。戦前の合理主義への回帰願望もあった。
LA BARCELONETA Residential Building
1951 スペイン バルセロナ
設計:J・Aコデルク
via artchist
二極の間を揺れているという意味で地域主義者。カーサ・ボルサリーノと同様の「伝統的」分節化が見られる。
アレハンドロ・デ・ラ・ソタ
1913-96
マドリード出身の建築家
via wikipedia
Gobierno Civil 知事官邸
1957 スペイン カタルーニャ タラゴナ
設計:アレハンドロ・デ・ラ・ソタ
via sobrearquitecturas
Maravillas College Gymnasium
1961 スペイン マドリッド
設計:アレハンドロ・デ・ラ・ソタ
via plataformaarquitectura
「カタルーニャ地域主義」の枝分かれ
リカルド・ボフィル
1939-
バルセロナ出身の建築家
via architravel
Nicaragua Apartment Building
1964 スペイン バルセロナ
設計:リカルド・ボフィル
via ricardobofill
コデルクの煉瓦造りの土着的用法の見直しに似ている。
サナドゥ Xanadú
1967 スペイン カルペ
設計:Ricardo Bofill Taller de Arquitectura
via ricardobofill
キッチュ、ロマン主義に傾倒。フォトジェニックな背景画的建築に転落。自己陶酔的。
Walden7
1970-75 スペイン バルセロナ Sant Just Desvern
設計:Ricardo Bofill Taller de Arquitectura
via archidaily
「バルセロナ派」の折衷的傾向よりも積層的で土着的
アルヴァロ・シザ
1933-
ポルトガルの建築家
via wikipedia
シザはアールトの思想を出発点にして、特殊な地形形状や地方の素材感を根付かせようとするのと同時に、ポルトガル地方の地方独特の微妙な光、素材、手仕事に深い敬意を払っている。
敷地の地形に巧妙にはめ込まれ、視覚的、映像的ではなく、触覚的で構築的な建築をつくる。
ベイレス邸
1973-77 Portugal ポルト地区 ポヴォア・デ・ヴァルジン
設計:アルヴァロ・シザ
via ofhouses
ヨーロッパの地域主義
ヨーロッパでは都市国家の痕跡があちこちに残っていたので、WW2後にも地域主義への推進力が自然発生的におこった。
スイス連邦 ティチーノ地域主義
スイスには、その国特有の複雑な言語的境界や伝統的世界主義があり、強い地域主義的傾向をしめしてきた。
カスティオーリ邸 Casa Costioli
1960 スイス カンピオーネ・ディタリア
設計:ドルフ・シュネブリ
via germanpostwarmodern
ネオコルビジェ風。商業化した近代主義の影響に対する、ティチーノ地方の建築による抵抗のはじまり。
<スイスの他の地方への影響>
現在のティチーノ地域主義の起源は、戦前のスイスにおけるイタリア合理主義運動の擁護者たちにある。
ハーレンのジートルング
1960 スイス ベルン
設計:アトリエ5
via themodernhouse
ルガーノ州立図書館
1936-40 スイス ティチーノ州 ルガーノ
設計:リノ・タミ
via wikipedia
Albergo Arizona
1957-59 スイス ティチーノ州 ルガーノ(イタリア語圏)
設計:Tita Carloni
via heimatschutz
1950年代中期、ライトの「有機的」なティチーノを築くことを目指した。そうすることで、近代文化の価値が地方の伝統と自然に織り交ざることになるだろうと考えた。
1970年代初期、近代主義の進化過程のすべてを批判的に再評価。
マリオ・ボッタ
1943-
スイスの建築家
via wikipedia
スカルパの元で正式な建築教育を受ける。コルビュジェ、カーンの助手を経験した。
ボッタは敷地を築くことへの関心があり、歴史的都市の喪失を「都市を縮図化」することで償うとういう信念をもつ。手作業によって形態を豊かにするという考え。
リヴァ・サンヴィターレの住宅
1973 スイス リヴァ・サンヴィターレ
設計:マリオ・ボッタ
via thegroundmag
ゴットフリート・ベーム
1920-
ドイツの建築家
via wikipedia
「同化と再解釈」
バウスベア教会 Bagsværd Kirke
1976 デンマーク コペンハーゲン
設計:ヨーン・ウッツン
via archidaily
プレハブの規格集成材と現場打ちコンクリートの組合せ。西洋的な要素の東洋的な輪郭による再活性化。
Casa presidencial del Fuerte San Juan de Manzanillo
1978 コロンビア カルタヘナ
設計:ロヘリオ・サルモナ
via archidaily
カルタヘナhttp://www.trover.com/d/8TWp-el-bosque-cartagena-colombia
Víctor López Cotelo
1947-
マドリード出身の建築家
via blogfundacion
Una biblioteca en Zaragoza
1990 スペイン サラゴサ
設計:López Cotelo & Puente
via jaumeprat
関連書籍
『現代建築史』,ケネス フランプトン (著), Kenneth Frampton (原著), 中村 敏男 (翻訳),青土社,2003
『終わりの建築/始まりの建築―ポスト・ラディカリズムの建築と言説 (10+1 series)』五十嵐太郎 (著), メディア・デザイン研究所 (編集),2001
『建築家なしの建築 (SD選書 (184))』B・ルドフスキー (著), 渡辺 武信 (翻訳),鹿島出版会,1984
『反美学―ポストモダンの諸相』ハル フォスター (編集), 室井 尚 (翻訳), 吉岡 洋 (翻訳),勁草書房,1987
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