ディコンストラクション(脱構築)とは
フランスの哲学者ジャック・デリダが創始した理論で、20世紀後半の現代思想を牽引した。
古代ギリシャから連綿と続いてきた西洋哲学の前提である二項対立を疑い、その解体を試みるもの。
デリダはもともと、この言葉をハイデガーの「解体」の訳語として使いはじめた。
ロゴス(理性)中心主義への批判であり、建築、文学批評、フェミニズム理論など、広い分野に影響を与えている。
ジャック・デリダ
1930-2004(満74歳没)
フランスの哲学者
概念:脱構築、差延、散種、男根ロゴス中心主義、エクリチュール、痕跡、現前の形而上学、挿入
主著:『グラマトロジーについて』『声と現象』『エクリチュールと差異』
建築においては
ポストモダンの一派であり、ロシア構成主義(コンストラクティヴィズム)の焼き直しとも言われる。
脱構築主義と括られる建築家は、デリダの思想とロシア構成主義の影響が強く、造形的には幾何学的でアシンメトリーのものが多い。
この言葉が広く知れ渡ったのは、ピーター・アイゼンマンやベルナール・チュミが、自分たちの作品説明をする際に、デリダの思想を引用したことにはじまる。それをフィリップ・ジョンソンが「ディコンストラクショニズム」と名付けてスタイルとして定義し、ポストモダンが終焉すると共に流行することとなった。
ディコンストラクションの意図は、コルビジェらに代表される「形態は機能に従う」という機能主義のモダニズムを乗り越えようとするところにある。ポストモダニズムの特徴である過去の様式を引用することも避けていることから、建築全体をなんらかの形で更新させようとする試みでもある。
<きっかけとなったMoMAの企画展 ,1988>
スタイルとして定着するきっかけとなったMoMAの展覧会「デコンストラクティヴィスト・アーキテクチャー」に招待された建築家のうち、実際デリダに関心を寄せていたのはアイゼンマンとチュミのみだった。
企画展の出品者:フランク・ゲーリー、ダニエル・リベスキンド、ピーター・アイゼンマン、コープ・ヒンメルブラウ、ザハ・ハディド、レム・コールハース、バーナード・チュミ
Deconstructivist Architecture, 1988 MoMA
おもな建築物
ヴィトラ・デザイン・ミュージアム
1989 ドイツ ヴァイル・アム・ライン ヴィトラ・キャンパス内
設計:フランク・ゲーリー
via wikipedia
ヴィトラ社工場・消防ステーション
1993 ドイツ ヴァイル・アム・ライン ヴィトラ・キャンパス内
設計:ザハ・ハディド
via aasarchitecture
「震災の亀裂」ヴェネツィア・ビエンナーレ建築展, 1996
コミッショナー:磯崎新
via interventionsjournal
震災現場から瓦礫を運んで展示した。日本館は金獅子賞を受賞。デコンの終焉を印象づけたと言われる。
ビルバオ・グッゲンハイム美術館
1997 スペイン ビルバオ
設計:フランク・ゲーリー
via widewalls
ピーター・アイゼンマン
1932-
アメリカの建築家
via AD
虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑
MEMORIAL TO THE MURDERED JEWS OF EUROPE
2006 ドイツ ベルリン
設計:ピーター・アイゼンマン
via DIVISARE
CITY OF CULTURE OF GALICIA
2014 スペイン サンティアゴ・デ・コンポステーラ
設計:ピーター・アイゼンマン
via AD
ダニエル・リベスキンド
1946-
ポーランド系アメリカ人の建築家
via wikipedia
ベルリン・ユダヤ博物館
1999 ドイツ ベルリン
設計:ダニエル・リベスキンド
via wikipedia
ポーランド ウッチ生まれ(両親はユダヤ系でホロコーストの生存者)のダニエル・リベスキンドは、この建築の目的について、このように答えている。
私の目標は、展示のための私の建築の中にある種の破壊的要素を作り出すことでし。ユダヤ博物館の中では、人々が自ら楽しみながら、心地よさを感じ、感動しなくてはなりません。けれども、彼らが哀愁に逃げ込んだり、現在に全く関係しない過去の良き日に逃げ込んだりすることを阻止したかったのです。
この建築にシンボリックなサインがないことに耐えられない多くの人々は、その意味を探し考える。けれど簡単には答えは見つからず、しかも特定の一次元的な解釈には抵抗するように意図されてつくられている。
リベスキンドがこの建築に望んだことは、ナチスの忌まわしい記憶はスイッチ一つでオンオフできるほど簡単なものではないけれども、建築を触媒としてその記憶を補強しながら、一度にしかも多角的にそれを操作することだった。
ただ傍観するのではなく、何かしら意味のある体験として人々の記憶に残ることを望んだ。
Any会議
1991年から2000年にかけて開かれた建築の国際会議。
「Any」をコンセプトとして、建築と哲学を架橋しながら、20世紀建築の総括と21世紀の建築について話し合いをおこなった。
1980年代のポストモダンが衰退していく流れを受けつつ、また28年から59年まで国際建築の近代化を牽引したCIAM(Congrès International d'Architecture Moderne、近代建築国際会議)の20世紀末における反復としてもみなせるだろう。参加者には、当初50歳代のレム・コールハース、ベルナール・チュミ、ダニエル・リベスキンド、その下に続く世代としてグレッグ・リン、アレハンドロ・ザエラ=ポロ、ベン・ファン・ベルケルなどが挙げられる。またジャック・デリダや、ジョン・ライクマンなどのジル・ドゥルーズの思想を継承する哲学者、そして日本からは浅田彰や柄谷行人らも参加している。この会議は、20世紀の総括を行なうことで、21世紀における社会的アクティビティの中心となるグループの組織化と世代交代の誘発を目的とした。出典:artscape
ヴィトラ・キャンパス
「ヴィトラ・キャンパス」とは、スイス創業のデザイナーズ家具ブランド「ヴィトラ社」が所有する、広大な敷地の名称。
バーゼル郊外のヴァイル・アム・ライン(ドイツ領)にある。
世界の有名建築家がこの敷地に建物を建てており、観光地としても人気が高い。
安藤忠雄のセミナーハウス、ザハ・ハディドの消防署、アルヴァロ・シザの工場施設(連結通路の屋根)、ジャン・プルーヴェのガソリン・スタンド、バックミンスター・フラーのドームテント、ヘルツォーク&ド・ムーロンによるショップ、カフェを併設するショールーム「ヴィトラハウス」などが建築されている。
関連書籍
『エクリチュールと差異 (叢書・ウニベルシタス)』,ジャック デリダ (著), Jacques Derrida (原著), 合田 正人 (翻訳), 谷口 博史 (翻訳),法政大学出版局,2013
『FRANK GEHRY RECENT PROJECT』,フランク・O.ゲーリー (著), 二川幸夫 (著),ADAエディタトーキョー,2011
『GA DOCUMENT―世界の建築 (99) ザハ・ハディド』,Zaha Hadid (著), Yukio Futagawa (著),エーディーエーエディタトーキョー,2007
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